ドメスティシティ 語源: ラテン語では「ドメスティカス: 家の中のもの」、または「ドムス: 住宅、家」

摘要

個々人の生活の基盤となる"ドメスティック•レルム/家環境"という概念は、今日知られているように、産業革命により賃金労働が家庭から切り離された19世紀半ばに登場しました。ドメスティシティの崇拝と結びつきつつ、家は公的な世界から切り離された完全にプライヴェートな環境と位置づけられました。"ドメスティック"は、いまだ"住居や家庭活動、世帯、家、家族"に属するため、再定義しようとする試みにたいして頑なに普遍的で保守的です。かたや歴史的には、この家環境の対極をなすように、工場やオフィスでの賃金労働が位置づけられ、社会的にも構造化されています。21世紀に入った今も、この二極構造は観念的な優位性を保ち、家環境がいかに構築されるべきであるかという我々の考え方をかたちづくっています。この二極構造を踏まえて、未来は機械化によって可能となる余暇中心の生活として構想され、20世紀に登場した新技術の多くは作業の自動化に重点を置いて開発されました。1962〜63年にハンナ•バーベラ•プロダクションが制作した漫画「宇宙家族ジェットソン」は、こうした未来像を描いた最も有名な作品でしょう。本作品では、社会的構造やその特徴といった面では、ほぼ当時と変わらない文化が描写されていますが、そこでは労働-家庭内での労働を含む-はすべて自動化されるか、目に見えない存在となっています。犬は自らランニングマシンを使って散歩をし、食事はボタンを1つ押すだけでできあがり、お手伝いさんは人間型ロボット、という設定です。こうして住生活をより簡易なものにする数々の技術が想像されたとはいえ、人々の労働の場は変わらず工場であり、家族の構成は核家族で、また妻のジェーンは主婦として描かれています。しかし20世紀後半になると、住環境のみを描いた未来像は姿を消し、代わって、労働と余暇が混ざり合い、影響を与え合うようになります。未来にあるのは、住生活と賃金労働の識別ができない生活です。スパイク•ジョーンズ監督の映画「her/世界でひとつの彼女」(2014年)では、主人公の職場環境は暖かみがあり家庭的で、住環境の特徴を備えています。そして、人々の時間は、スプロケットを製造するボタンを押すこと-産業界の考えに根ざした旧式の労働-にではなく、他人宛の手紙の口述(多くの場合、とても親密で個人的な、家族向けの内容)に費やされます。このように最近のSF作品では労働空間が住まいのような特徴を帯びるようになります。家が労働の形態を吸収するこうした状況は、デジタル人文学の専門家アラン=マルク•リューのいうところの「ホーム•オフィス」や「テレコミユーティング」といった姿を借りて、人々の余暇の時間が労働形態へと、さらには家がサーヴィスとシステムを提供する場へと転換される「知識の新しい遍在的体制」なのです。