「伝統」梁思成（『祖国的建築』所収）

摘要

梁思成(1901-1972)は中国近代の建築家、建築史家である。清華大学建築学科の創設、北方地方に散在する古建築に対する実地調査、中国建築通史の執筆など、20世紀前半の中国(=中華民国)において多大な仕事を残した。本書は、その梁思成が1949年の中華人民共和国建国後に行った講演の記録である。中国古建築を時代別、類型別に概観するとともに、そうした史的変遷の帰結として、新時代の中国社会にふさわしい建築と建築家のあり方を提案することが、本書の主眼である。およそあらゆる新設の国家がそうであるように、建国当初の中華人民共和国においても、新たな時代と国を象徴する建築と都市の設計思想をめぐり、喧々諤の議論が交わされた。こうした議論の中心にいたのが、すでに中国建築界のリーダー格であつた梁思成である。新たな時代と社会にふさわしい新たな建築様式の提案、という大上段の構えを本書が取っているのは、時代の要請であった。