幻のオリンピック東京大会会場計画〈下〉

摘要

オリンピック東京大会の会場計画は、明治神宮を管轄する内務省からの強い反対意見の表明によって、明治神宮外苑競技場の改造問題が紛糾する中、それ以上の大きな出来事に遭遇する。1937年7月7日の日中戦争の勃発である。この状況の急激な悪化の中で、ォリンピック東京大会の会場計画はどうなっていったのだろう力、。続いて、その後の動きについて見ていきたい。日中戦争の勃発から約1カ月後の8月5日、開かれた常務委員会は、先の内務省から提示された「神宮外苑競技場改造経費奉献」の件に関しては、「全金額に対しては修正の余地を有し他は内務省の申出の通り承認、大島副会長より口頭にて答申する」と決議している。つまり、改造に必要な建設費の奉献については金額の修正はあるものの、それ以外の内務省から提示された条件については承認したのである。常務委員会が、内務省の一方的な要求を受け入れた背景には、6月のIOCのワルシャワ総会で、ラツール会長から厳命された、明治神宮外苑を中心とする会場計画が「東京開催の条件」であるという縛りが強く働いていたに違いない。一方、岸田は、こうした経緯も、ラツール会長の判断が固定的ではないことも良く理解していたのだと思う。というのも、競技場問題の最中、「昭和十二年九月」と末尾に記された文章で、次のように記しているからである。