環境動態はどこまで分かってきたか？: 将来予測のための課題

摘要

福島県では、東京電力(株）福島第一原子力発電所（1F)の事故により放出された放射性セシウムが広範囲 に沈着した。放射性セシウムの約70%は森林に沈着し、除染されていない生活圏から離れた山地森林には未 だに残存している。時間の経過とともに、環境中の放射性セシウムは、雨水や水流による林床·土壌の侵 食や、風などによって移動すると考えられる。その結果、土壌粒子等に吸着した放射性セシウム（以下、 懸濁態）が河川敷等に堆積し、空間線量率に影響を及ぼす可能性や、イオンのように水に溶解した放射性 セシウム（以下、溶存態）が農林水産物等に移行し、その濃度に影響を及ぼす可能性が懸念されてきた。原子力機構では、福島県の環境中に沈着した放射性セシウムの移行挙動を予測することを目的として、 2012年秋から福島長期環境動態研究（F-TRACEプロジェクト）を進めてきた。プロジェクトでは、現地調 査•室内実験により放射性セシウムの移行メカニズムを解明し、物理·化学モデルに基づく計算機シミュ レーションツールを整備するとともに、計算結果を実測値と比較し、再現性を確認した上で、放射性セシ ウムの移行挙動予測に基づき、将来の空間線量率や環境中の放射性セシウム濃度を予測することを目指し ている。本報告では、F-TRACEプロジェクトの成果を中心に、森林から河川水系を経て河口域に至る放射性 セシウムの動態について、得られた知見を概括するとともに、将来予測のための課題を整理する。