海洋性大気中での汚染物質計測と数値モデル解析：アジアから北極まで

摘要

アジア地域の急速な経済発展により，人間活動によって大気中へ排出される窒素酸化物(NOx), 二酸 化硫黄（S0_2)，一酸化炭素（CO),炭化水素等の汚 染物質量は，産業革命前の状態と比べ格段に増加し， 大気中での光化学反応を伴いながら絶えず広域へと 拡散•輸送されている.2013年に大きな話題となつ たPM2. 5問題に加え，その一成分であるブラックカ ーボン(BC)粒子やオゾンは，地球温暖化を促進する 物質としても注目されている.また，NOxの排出に 起因して大気中で二次的に生成する硝酸塩は，陸 面•海洋へ沈着すると富栄養化を引き起こす.大気 の輸送は速く，約3週間で地球を東西に一周するた め，物質によっては日本周辺へと「越境汚染」する 程度にとどまらず，「グローバル大気汚染」に結び付 く.近年，現場観測に加えて，大気汚染物質の衛星 観測も行われるようになり，こうした大気汚染物質 の分布や輸送メカニズムに関する情報量は増加して きた.しかしながら，森林火災等の自然起源からの 放出も寄与するなど複雑であり，問題解決のための 必要な科学的知見である，「重要な物質ごとの濃度変 動プロセス，および排出源別の寄与までを含む収支 の理解」は，着実に前進しているものの，未だ十分 とはいえない.