臼蓋カップの擬似体液中でのゆるみ挙動の実験的評価

摘要

超高齢社会の到来により，人工股関節全置換術の件数 は増加している.人工股関節のチタン合金基材上には水酸アパタイト(HAp)溶射皮膜が一般的に形成されてい る.生体骨の無機物主成分と類似しているHApは，そ の表面へ骨形成を促す骨伝導性を有し，人工関節埋入後 の早期固着が期待される.しかし，人工股関節の再手術 件数も増加している.主要な要因は無菌性ゆるみ(57%) であり，その発生部は臼蓋部である（35%).臼蓋カ ップのゆるみは炎症反応や細菌感染による生物学的要 因とされているが無菌性ゆるみの機序はそれとは異な り，力学的因子の寄与が大きいと考えられる.実際に， 臼蓋カップの取付角度の誤差により変位が促進された 報告がある.基材上の皮膜損傷は，臼蓋カップの固定 力を低下させると想定される.そのため，不適切な初期 固定による負荷条件の変化が，繰返し負荷により皮膜損 傷を促進し，ゆるみをもたらす機構を，実環境を模擬し た擬似体液中にて実験的に評価する必要がある.