現実とバーチャルの境界で情報を制御する:メディアセキュリティ・プライバシーのこれから

摘要

IoT（Internet of Things）の進展により，現実世界の様々な情報をバーチャル空間に収集して分析することで，生活のあらゆる時間・空間で有益なサービスが受けられるようになった．一方で，カメラを内蔵した携帯端末の急速な普及により，人間という知的センサーによって，現実世界で取得した画像や映像などのマルチメディア情報をバーチャル世界で無秩序に共有・分析されることによるプライバシー侵害やセキュリティ問題が懸念されている．2016 年にロシアで公開されたFindFace と呼ばれるスマートフォン上の顔認識アプリケーションを用いて，許可なく撮影された人物写真から名前や所属が特定・公開される事例や，ネットワークカメラを経由した人物映像の無許可配信など，現実世界の人間の意思とは無関係にセンシティブな情報が第三者により収集・利用されており，深刻な社会問題になっている．さらに，カメラの高解像度化や高機能化により，被撮影者の指紋や虹彩といった生体情報がサイバー空間で共有，分析される脅威が指摘され始めている．2014 年には，ドイツのハッカーが，市販のデジタルカメラで撮影されたドイツの国防相の指の写真から，指紋情報の復元に成功しており，2017 年に同ハッカーは，市販のデジタルカメラの夜間撮影モードを用いて，虹彩情報の取得と虹彩認証のなりすましに成功している．生体認証に用いられる生体情報は終生不変であるため，一旦漏えいしてしまうと，なりすまし攻撃の脅威となり，当事者の生涯にわたって大きな不利益をもたらす危険性がある．