無線センサーネットワークと地理情報システムの融合による環境観測システムの開発

摘要

気候変動などに代表される環境問題が,近年大きく注目されている[1].とくに都市部におけるヒートアイランド現象は,多くの自治体が現状調査や対策などに関する取り組みを実施するに至っている[2].ヒートアイランド現象は,局地性が強く,現状把握や気温上昇の原因解明などに,詳細な気象データが必要とされている[3].一方,通信技術の発展やセンサーデバイスの小型化などを背景に,複数のセンサーをネットワークにより結合したセンサーネットワーク技術が,理論,応用の双方から大きく発展してきている[4].センサーネットワーク技術の活用は,詳細な気象データの取得を低コストで可能とする観測システム構築の可能性を有している[5],[6].詳細な気象データ観測の実現を目的に,車両(自動車)搭載型の小型センサーによる観測システムが提案されている[7].しかしながらここでは,観測データの解析と利用者への提示が,観測行動の完了後におこなわれ,観測と並行し実時間で観測データを提示することは困難となっている.環境観測システム利用者の観点からは,収集されたデータが単純に計算機内に蓄積されるだけでは不十分である.高度なデータの解析や迅速な判断を可能とするには,地理情報システム(GIS; Geographic Information System)[8]と呼ばれるデータベース上に,位置に関する情報をもったデータ(空間データ)として集約,管理され,速やかに視覚的に提示されることが必要となる.本稿では,無線通信機能を有した複数のセンサーユニットとGISを備えた観測ステーションから構成される環境観測システムの開発に関する報告をおこなう.提案する観測システムでは,複数のセンサーユニットにより取得される気象データが無線通信により観測ステーションに集約される.また観測データは,空間データとして実時間で利用者へ提示される.提案するシステムを利用した市街地での実験により,気象データの観測および観測データの実時間での提示が可能であることが示された.