指尖動脈血圧波形における精神負荷により誘発される拡張期の反射波到達時間の変化

摘要

ヒトの動脈樹では血管が分岐するところや血管径が細くなるところなどの様々なところで反射が起き、心臓からの駆出波とは反対方向の反射波が発生する。そのため、一般的な血圧波形は心臓からの駆出波、収縮期にみられる反射波、拡張期にみられる反射波の主に三つの波の合成波でできている。反射波は心臓からの駆出波よりも経路長が長いことなどから、交感神経を刺激することで起こる血管の平滑筋収縮により到着時間や振幅が変化することが知られている。特に収縮期の反射波は動脈硬化をはじめ、様々な身体の状態を評価する際の指標として用いられ、研究が進められている。しかし、拡張期の反射波は収縮期の反射波よりも多くの要因により複雑に制御されており、原因と結果の関連付けが難しいため、研究があまり進められていない。本発表では算術による精神負荷時の拡張期の反射波の到達時間の変化を計測することによって精神負荷の状態を非侵襲的に評価する方法を検討した。安静時に比べ算術による精神負荷時に拡張期の反射波の早期到着、もしくは遅延が統計的に有意にみられた。被験者内では変化の方向は一致していたが、被験者間での変化の方向は異なっていた。精神負荷による自律神経の興奮が線形に変化しないことや血管コンプライアンスの限界を超えていることが考えられる。