静かな環境が聴覚障害者の発話に及ぼす影響の検討

摘要

音声コミュニケーションを図るにあたり，置かれた会話場面に合わせた発話調節を行う必要がある。例えば、騒音下では大きな声ではっきりと話さなければならない。また，静かにしなければならない環境場面では，声の大きさを注意して話す必要がある。健聴者の場合は，6 歳時点で声の大きさや速さなどを調節することが可能になる[1]。一方，聴覚障害者の発話は，場面や相手に応じて声の大小や発話速度の加減が利かないことが指摘されている[2][3]。さらに，そのことが一因となって「空気が読めない」というレッテルを貼られることや社会性欠如といった二次的障害に連鎖していく可能性が推測される[4]。ただし，聴覚障害者が会話場面でどう調節しているのかに関しては，定量的に明らかにされていない。そもそも，聴覚障害者の静かに話す“ささやき声（Whisper Voice）”の実態が解明されていない。それを検討することで，聴覚障害者の発話の調節能力を明らかにでき，自身の発話を把握できるとともに，場面を考慮したコミュニケーションに関する発音?発語指導の基礎的資料になり得ると考える。そこで，今回は普段の場面と静かな環境場面を想定した場面の2 場面の発話音声について，発話速度を指標に音響分析を行うことを目的とした。