外部磁場による浮遊コマの運動制御

摘要

浮遊コマは永久磁石で出来たコマとベース磁石から構成される,回転体のジャイロ効果を利用した電磁石を使用しない磁気浮上系である．コマの並進運動は鉛直方向にはコマに働く斥力と重力が釣り合い,水平方向には原点への復元力が働くため安定である．回転運動についてはコマを反転させる向きにトルクが発生するが,コマの対称軸周りに十分な角速度を与えておくとジャイロ効果により反転を防ぐことが出来る．浮上したコマは,空気抵抗により角速度が降下すると次第に歳差運動を生じ,更に角速度が低下し姿勢を安定させるに足るジャイロ効果が得られなくなるとコマは反転しながら落下する．浮遊コマの原理は1973 年にHarrigan によって発見された．静電磁場において物体を安定に浮上させることは不可能であるというEarnshaw の定理を覆す点で,浮遊コマは他の磁気浮上系とは浮上原理が異なる．これまでにBerry やSimon, Dullinらは浮遊コマの力学的な安定性解析を行い,コマが安定に運動する回転角速度の範囲を導いた．特にSimon らは研究の中で,コマの半径方向に存在する僅かな磁化に対し外部から水平方向に周波数がコマの回転角速度に等しい交流磁場を与えてコマの回転を加速させ,安定に浮上する回転角速度の上限値を実験により示した．しかし交流磁場の位相を誤るとコマが不安定化するため,加速させるには交流磁場の試行錯誤的な位相調整が必要であった．本研究では浮遊コマの安定性と外部磁場による回転角速度の加速に着目し,安定性を損なわない様にコマの回転角速度を制御する1 軸外部磁場の入力設計と制御実験を行った．近年,環境意識の高まりから低騒音,オイルレス,低消費エネルギー等の利点を持つ磁気浮上技術を用いた機械の非接触化が注目されているが,浮遊コマは十分な回転角速度の下では安定な磁気浮上系であり,外部磁場によって回転角速度を制御することが出来れば,エネルギー貯蔵用フライホイールの非接触支持化や磁気軸受のセンサ,アクチュエータ数削減等工学的な応用が出来ると考えている．