不規則横波中における非ガウス型確率密度関数の近似的推定手法に関する研究

摘要

昭和31 年の運輸省令として船舶安全法の船舶復原性規則が公布、昭和32 年に施行されていることから分かるように、横波中における船舶の安全性に関する取り組みの歴史は非常に長い。船の横揺れ動揺を表す運動方程式は非線形であり、直接運動振幅を大角度まで求めることは難しい。それに対し、この船舶復原性規則は、エネルギーの観点から転覆に対する安全余裕を決定する画期的手法であり、戦前?戦後の日本の復原性研究のレベルの高さを如実に物語るものである。一方、不規則横波中における船体動揺、その中でも転覆の危険性をより詳細に考察しようとすると壁にぶつかってしまう。これは、転覆現象が一回限りの非定常な現象であり、定常な確率現象ではないためである。その難しさのため、転覆確率の推定手法が提案され出したのは1990 年代に入ってからであり、比較的最近のことである。その中で、Belenky とUmeda et al.は転覆が稀な事象であることを基に、split-time 的アプローチにより、その確率を計算しようと試みた。その後、復原力曲線の区分線形近似に基づく上述のBelenky の手法 の考え方に賛同した梅田は、Paroka et al.や Maedaet al. の研究に見るように、その手法を横波?横風中に拡張することに成功した。一方、最近、著者の一人は、横波中の横揺れ動揺の確率密度関数（以下、状況に応じてPDF（Probability Density Function）と呼称）を、木村らが提案した解析的により求めた非ガウス確率密度関数を用いる手法を用いて求め、その情報を用いて転覆確率を計算している。この手法はBelenky とは異なり、直立状態を含む領域での船体動揺を、復原力の非線形性については完全に考慮して解析を行った点に大きな前進があった。