再帰性反射を用いた眼球運動計測一動物眼による検討

摘要

眼球運動は人の興味·意図を示す外界から観測可能な数少ない情報源のひとつであり，眼球運動を簡便に計測する手段の実現は，認知科学，人間工学等に関する基礎的研究からマーケティング調査などの産業応用に至るまで幅広い分野の発展につながる．一方で，従来の眼球運動計測には以下のような制約があった．広く一般的に利用されている角膜反射法や EOG 法による視線検出は眼球と装置の距離が一定範囲内にあることを前提としており，角膜反射法を利用した非装着タイプであっても 1m 以上遠方での利用は難しい．また，従来手法のほとhどは計測対象が水平·垂直の 2 軸の眼球運動に限定されており光軸回りの回転（回旋）運動を捉えることは困難である．一部には強膜反射法を発展させて回旋運動を計測する試みもあるが，強膜反射には人種差·個人差が大きく実用化は容易ではない．一方で，金属コイルを埋め込hだコンタクトレンズ状のデバイスを眼に装着し，頭部周辺に配置した対向のコイルで発生した磁界により生じる電位を計測することで眼球運動を計測するサーチコイル法は，極めて高い精度と3軸の眼球運動計測を可能とする方法として知られていが．しかし，サーチコイル法では目に装着したコイルを外部の装置と有線で接続する必要があり，装着に麻酔を要するなど被計測者への負担は大きい．装置も大掛かりとなるため，広く利用されるには至っていない．特に医療分野では回旋を含む3軸の眼球運動の計測が重要であり，サーチコイル法のように高精度の 3 軸計測を可能としながら，人への負担が少ない計測手段の実現が望まれる．それに対し我々は再帰性反射マーカーを持つコンタクトレンズを利用した眼球運動の計測手法を提案した．提案手法ではコンタクトレンズ上に形成した複数の再帰性反射マーカーの位置を同軸照明により計測し眼球運動を推定する．これにより回旋運動を含む3軸の眼球運動が計測できる．PDMS（ポリジメチルシロキサン）で作成した薄型の反射シートを市販レンズと組み合わせて動物眼上で反射性能を確認した結果について述べる．