指尖皮膚血流の信号解析による末梢循環障害の診断手法の開発

摘要

糖尿病や高血圧症が原因となる心疾患や脳血管疾患によって亡くなる方の数は年々増加している.また，日本では糖尿病が強く疑われる成人男女が2012年で約950万人にも上ることが報告されている.食事療法やインスリン療法など糖尿病の管理?治療法の急速な発展，検診の普及により糖尿病患者の寿命は大幅に改善されたが，寿命が延びるにつれて血管障害?神経障害を中心とする晩期合併症が糖尿病患者の死因の大半を占めるようになった.したがって，現時点における糖尿病治療の最大の目標は種々の急性?慢性合併症の発症と進展の阻止にあると考えられる.末梢循環障害は糖尿病合併症のひとつであり，患者の予後を左右する重要な症状である.循環障害は血管内壁の硬化や狭小化などの器質的要因と，自律神経系の機能障害によるスムースな血液の流れの阻害といった機能的要因の両者が関与していると考えられる.末梢の血管や神経は細いものが多いため比較的早い段階で循環障害が発症する可能性が高いが，発症初期には自覚症状がほとhどなく，疼痛や麻痺などの症状が自覚された時にはかなり病期が進行していることが多い.それゆえ，末梢循環障害を早期に発見できれば糖尿病合併症の予後の改善に寄与することが可能であると考えられる.本研究は指尖血流量変動の計測によって得られるデータから末梢循環障害を早期に診断するための新たな指標となり得る特徴量を示し，その臨床応用への可能性の検討を行おうとするものである.特徴量の探索にあたり指尖血流脈波の生体ゆらぎ現象と血流脈波伝播速度に着目した.心拍や脈拍など生体におけるリズムは常に変動していることが知られており，中でも心拍変動(心拍ゆらぎ)の解析は自律神経機能の評価など機能的な病態の評価に応用されてきた.一方，指尖血流脈波については近年その解析により自律神経機能を評価しようとする研究も行われているが,心拍変動に比べ応用研究は少なく，臨床的な指標の確立のためには弁別性能の評価など疫学的調査も含めた検討が必要と考えられる.また，近年動脈硬化の評価指標として注目されている脈波伝播速度(PWV：Pulse Wave Velocity)は血管内径の変化など主に器質的な要因による血管障害の重症度を評価することが可能であると報告されており，計測が比較的容易に行えることから普及が進hでいるが，計測時の姿勢などで数値が変化しゃすいなどの課題が存在する.