引張衝撃負荷による培養神経細胞の機械的損傷

摘要

近年，交通事故やスポーツ事故時の頭部外傷を原因とする高次脳機能障害の後遺症のために多くの人の社会復帰が困難となり大きな社会問題となっている．外傷性脳損傷（traumatic brain injury：TBI）は，多くの場合致命的な損傷を抱え，生存した場合でも深刻な神経機能障害を引き起こす．なかでも，びまh性のTBI であるびまh性軸索損傷（diffuse axonal injury：DAI）は，受傷時の強制的な回転運動によって生じる慣性力が頭部に加わることで脳組織が変形し，結果として神経軸索に引張応力が生じる．この機械的負荷による変形は，軸索の細胞骨格に含まれるニューロフィラメント構造を損傷させ，局所的な圧縮や輸送障害を引き起こす．結果として輸送物質の蓄積により局所的な軸索膨張を誘発する．軸索膨張は二次性の軸索障害を誘発し，組織から神経細胞が分離し，結果として細胞死を引き起こす．一方，DAI は急性期に意識障害が遷延し，慢性期に多彩な高次脳機能障害を呈することが多いものの，computed tomography（CT）やmagnetic resonance imaging（MRI）などの画像診断で明らかな異常が検出されにくいという特徴がある．しかし，外傷初期に観察される軸索の膨張は，DAI における病理学的特徴であることや，軸索膨張の大きさと生存期間に正の相関があるという臨床研究も報告されており，機械的負荷における細胞外傷と軸索損傷および細胞死との定量的な関係を調べることでDAI における神経損傷程度を診断·予測するための一助となると考えられる．そこで本研究では，頭部外傷時に発生する広範囲の引張衝撃を培養神経細胞に負荷可能な装置を製作し，負荷直後の細胞形態変化と負荷24 時間後の細胞生存率を引張衝撃の違いにより比較·検討した．