薄板溶接構造物の疲労寿命評価

摘要

鉄道や船舶などの長期に亘る運行期間において安全性を維持するためには，設計時における疲労強度評価が重要である．これらの運行時には構造部材に不規則な荷重が負荷されるが，不規則負荷に対する疲労強度評価としては，線形累積被害則を用いた評価が一般的である．累積被害則を用いた疲労強度評価には，評価部に架かる応力(大きさ，頻度)及びS-N線図が必要である．上記の構造部材は，主に鋼板を溶接して構成されており，疲労き裂は溶接継手の止端部より生じることが多い．溶接止端部を評価対象とした場合，構造的不連続による局所的な応力上昇の影響を加味した応力算出方法としてホットスポット応力(HSS)がある．国際溶接協会(IIW)では，HSS を疲労強度評価に用いるためのS-N 線図が定義されており，これを用いた設計が可能となっている．HSS は通常，有限要素法(FEM)を用いて算出されるが，実構造物に適用した文献は少ない．また，近年では薄板溶接部のS-N 線図の傾きが母材の板厚の影響を受けるとした文献が散見されている．このため，本研究では，鉄道車両の構造部材の一部を模擬した要素試験片を対象に，FEM から算出したHSS とその実測値に対する精度検証を行った．また疲労試験結果を算出したHSSで整理したS-N線図を取得し，IIW が推奨するS-N線図との比較を行った．