(S)計測がもたらす溶接の科学と技術--文部科学大臣賞受寮記念

摘要

最近、「仕事の見える化」などプロセスや中身が見えることが重要だという論調の本が流行っている。現在推進中の第3期科学技術基本計画の推進戦略「ものづくり技術分野」では、「科学に立脚した日本型ものづくりの再構築」が基本的な取り組み方針として示されている1）。科学に立脚したものづくりという意味で、製品の性能や製造プロセスにおける様々な物理量をデジタル化、計測し、現象を科学技術で説明する「ものづくり計測」が重要な役割を果たす。私の研究対象である材料の溶接も同じである。アーク溶接やレーザー溶接において、溶接金属部では材料が加熱され溶融し、液相状態を経て凝固した後、相変態や析出などの組織変化がおこる。また、溶接熱影響部（HAZ）では融点までは加熱されないまでも、高温に加熱された後、同じく相変態や析出が起こることはよく知られている。このような溶接中の材料の組織的変化を調べるため、いろいろな手法が考えられてきた。それらの多くは、試料をある温度に加熱し、冷却中の所定の温度から急冷して、その温度における組織状態を凍結して、室温に冷えてから組織を観察するというものである。しかし、あくまであとから観察して、高温での現象を類推するものである。ところが最近では、計測技術の発達により溶接中の組織変化を直接観察し、評価したいという要求に応えることが可能となってきた。ここでは、我々のグループが行っている溶接中組織変化の“その場観察“技術を中心に紹介する。直接観察、計測することにより解ってくることも多い。