NIRSを用いたバーチャル旋盤加工時における脳賦活反応計測（聴覚刺激に対する脳賦活反応解析）

摘要

日本の製造業において，熟練技能を有する技能者の高齢化及び製造拠点の海外移転や若年就業者の減少により産業の空洞化が懸念されており，将来的に日本の製造業に危機的な状況をつくりだす可能性がある．そのため，今後も付加価値の高い製品を作り出すため，熟練技能の伝承と技術者の育成が不可欠であると考えられる．熟練技能を学習する手法として，OJT（On-the-Job Training）やビデオ映像，技術ドキュメントなどが用いられている．しかし，これらの手法は時間と労力がかかるうえ，学習効果は指導者の能力に大きく依存する．これら従来の技能伝承の問題を解決するため，バーチャルリアリティ（VR)環境下で作業訓練が可能なバーチャルトレーニングが提案している．バーチャルトレーニングは仮想空間上で行われるため，実環境下での訓練と同等の効果を得られるかどうかについて評価する必要がある．作業訓練効果を評価する手法として，アンケートや実技試験などが挙げられる．また，ビデオ映像やモーションキャプチャなどを用いた解析手法が存在する．これらの手法は，目に見える運動について解析できるが，聴覚効果や視覚効果，思考といった目に見えない要素について解析することが困難である．しかし，ものづくりにおいて動きだけでなく，聴覚情報や視覚情報をもとに，作業者が考えながら作業を行っているかどうかも重要な要素である．人が思考を行うと，脳の前頭前野で賦活反応が起きる．また，聴覚情報に対しては聴覚野が，視覚情報に対しては視覚野が賦活する．このことから，脳の信号を計測することで，バーチャルトレーニング効果を評価することが可能であると考えられる．そこで本論文では，旋盤加工作業を一例として，近赤外分光脳イメージング装置を用いてVR環境下で訓練を行ったときの脳賦活反応について述べる．