DLCコーティングによる宇宙用合成炭化油の真空中境界潤滑特性の向上

摘要

ダイヤモンドライクカーボン（Diamond-like carbon: DLC）は、切削工具の保護コーティングとしての利用をはじめ、産業界で広く応用されている。真空中での摩擦寿命が不十分であるため、宇宙開発の分野ではまだ利用が限定されているものの、真空あるいは不浄性ガス中においてsuperlow frictionと呼ばれるミリオーダーの低摩擦係数及び10~(-10)mm~3/Nm未満という極めて低い比摩耗率を示すなど、宇宙用潤滑剤としてのポテンシャルは非常に高い。一方で宇宙用機器の潤滑技術としては、低蒸気圧を持つ潤滑油の登場により液体潤滑剤の適用範囲が広がりつつある。真空中で長寿命を持う炭化水素系合成油が現在の主流であり、とりわけ多重アルキルシクロペンタン（Multiply alkylated cyclopentane: MAC）が多く用いられる。MACには真空中での境界潤滑条件下において、摩擦初期に摩擦係数及び下地金属の摩耗率が高くなるという欠点がある。そこで本研究では、DLCを下地金属にコーティングすることにより、MAC油の真空中境界潤滑特性の向上を試みる。