3 次元火星大気非静力学モデルの開発と鉛直対流の数値計算

摘要

火星大気において, 鉛直対流は下層大気における主要な熱輸送過程であるとともに, その結果生じる水平方向の温度差を介して大規模循環に影響を与えていると考えられている. 実際, 火星で頻繁に観測されるダストデビル(塵旋風) と呼ばれるμm サイズの砂によって可視化された鉛直渦は, 日中の活発な鉛直対流の存在を示唆している. 火星大気対流の3 次元数値シミュレーションは, 計算機能力の向上と地球大気向けの3 次元大気対流モデルの開発が進展した今世紀になって行われるようになってきた.Rafkin らのグループは地球大気向けの3 次元大気対流モデルRAMSを火星向けに改変し, 大気中に平均的な量のダストが存在する場合の放射加熱と背景風を与えて鉛直対流の計算を行った. 彼らは日中の対流セルの空間スケールは鉛直に約5 km で, 水平に約3 km, 鉛直風速は10 m/sec に達することを示した. また, Toigo らは別の3 次元大気対流モデルであるMM5を火星向けに改変したモデルを用いて, Rafkin らと同様のダストによる放射加熱を与えた場合の鉛直対流のシミュレーションを行った. 彼らは背景風の風速を変化させた場合に, 火星で頻繁に観測されるダストデビルのような鉛直渦の生成がどう影響されるかを調べている. これらの研究では, 特定の観測との比較を念頭において背景風やダストの放射加熱を導入している. しかし火星大気で生じる鉛直対流の自然な様相を調べるには, まず背景風とダストの放射加熱の無い条件でのシミュレーションを行う必要である. そのような研究として, 我々は過去に2 次元大気対流モデルを用いたシミュレーションを行ってきた. 本研究ではSugiyama et al. (2008)によって開発されてきた2 次元大気対流モデルを基に3 次元モデルを開発し, 開発したモデルの性能試験を兼ねて背景風とダストの放射加熱のない場合の鉛直対流のシミュレーションを行う. 特に対流にともなう鉛直風速の大きさと, 地表付近の鉛直渦の様子に着目する.