仮想空間におけるリアルタイム音響再現システム

摘要

計算機の性能の向上やCG の技術の発展により，現実に近い仮想空間の視覚的な表現が可能となってきている．より現実に近い空間を知覚させるためには，視覚以外の五感，とりわけ聴覚を対象とする音響モデリングが重要になる．しかしながら，材質の吸音特性を考慮した音響計算は非常に時間がかかり，リアルタイムでの再現は難しい．そのため，ハードウェアで実現するのが主流である．特に，仮想空間においては，リスナーは空間内で動き回り，空間の条件が一定に留まらず常に変わるため，再現にもこれに対応した柔軟性が必要となる．本研究では，フーリエ変換の性質を利用し，固定された音源における音響再現の高速化手法を提案し，移動するリスナーに対してリアルタイムでの音響再現を行う手法を述べる．フーリエ変換を用いるため，長い残響時間に対応するにはフーリエ変換のデータサイズを大きくとらなければならない．フーリエ変換（FFT）の計算時間は，データサイズの大きさに対して指数関数的に増加するため，そのまま適用すると非常に多くの計算時間を必要とする．この問題に対して，複数の小さなデータサイズのバッファを用意するマルチバッファによって，小さなデータサイズでフーリエ変換を行い，長い残響時間に対応させる．