スピンコート法により形成された空間電荷分布測定用薄膜センサの圧電特性

摘要

ポリエチレンは優れた電気的特性を有することから，電線や電気機器をはじめとした多くの分野で幅広く使用されており，近年の機器の大容量化に伴い，絶縁性能の向上が求められ，ポリエチレンなどの絶縁体に関する多くの研究がなされている。我々も，これまでに厚さ150μmの低密度ポリエチレン(LDPE)試料を用い，電気伝導解明に向けた研究をおこなっている。また，近年においては機器の小型化も進hでおり，機器に使用する絶縁体に関しても，小型で絶縁性能に優れたものがもとめられている。これに対して我々は，150μmより薄い試料における電荷挙動を観測することにより，ポリエチレンの電気伝導の解明及び絶縁性能の高い材料の開発に繋がると考えており，薄い試料の空間電荷分布測定には装置の高分解能化が求められる。空間電荷分布測定装置の分解能には，パルス電圧の幅，圧力波が伝搬する電極の厚さ，圧電素子の厚さなどが関係しており，これら諸要因を改善することによる装置の高分解能化に関する研究も報告されている。しかし，圧電素子について，市販のシートよりもさらに薄い数ミクロンの圧電素子薄膜を自作し，分解能を向上させた報告例はない。そこで我々は今回，自作圧電素子薄膜による装置の高分解能化を試みた。今まで使用していた圧電素子の膜厚は9μmであったが，市販の溶液型ポリフッ化ビニリデン(以下PVDF)を用いて，2μmと4μmのPVDF薄膜をスピンコート法により作製し，ヒステリシス曲線を観測することで薄膜の圧電性を確認した。また，圧電性を確認できた2μmと4μmのPVDF薄膜をそれぞれ空間電荷測定装置に組み込み，空間電荷波形の比較をおこなった。結果，4μmの圧電素子薄膜を組み込hだ分解能8μmの空間電荷測定装置を作製することができた。また，この装置を用いて厚さ70μmのLDPE試料における空間電荷分布を測定した。本稿では，自作圧電素子薄膜の評価とその薄膜を用いた空間電荷測定の結果についてまとめた。