エージェントとのインタラクションにおいて互恵性を有効に利用するための援助行動のデザイン

摘要

社会心理学の世界では人が他人からの施しを受けた時にその相手に対して「恩返しをしたい」という心理が作用することを返報性の原理と呼ぶ．人対人のインタラクションにおいて相互に持ちつ持たれつの関係が成り立つ場合，返報性の原理は人間同士の良好な関係構築に寄与していると考えられている．一方で援助者の施しに対して被援助者が充分な返報を行えない場合，返報性の原理は被援助者に負債感や罪悪感を与えることがある．本稿ではこのような被援助者が援助を行った者もしくはその者に関係する第三者に対して返報義務感を負わせる要因を心理的負債と呼ぶ．また心理的負債の量を心理的負債量と定義する．Greenberg(1980)は心理的負債を構成する2 要因は被援助者が受けた利益の大きさと援助者が払ったコストの大きさによって決まると提唱した．また心理的負債は，それによってもたらされる不快感などの累積が被援助者の心理状態に対して悪影響を及ぼす可能性があることが報告されており，援助に関する研究分野では被援助者に心理的負債感を与えないような援助方法ついて多くの議論が交わされている．