宇宙構造物における硬い構造と柔らかい構造

摘要

ロケットや衛星などの入れ物（構体）を作るところから始まつた宇宙構造工学には、構造体の大型化と小型化との両方の趨勢、宇宙空間特有の用途、構体から搭載機器構造へと範囲を広げ、変形できるからこそ伸展したり展開したりできる構造物が開発されました。やがて知的•適応構造物へと発展しました。本稿では、変形できることの静力学や動力学、柔軟構造の理論や解析手法のレビューという観点からではなく、実物開発の観点からこれらを例示しました。搭載機器構造開発の発展にともない、分離機構、ァクチユエータ、宇宙潤滑などの機構の研究開発の重要性も高まりました。構造大型化にともない機構部品数が爆発的に増加することに対しては、収納容積と機構不具合を低減するアイデアとしてィンフレータブル構造が研究され、惑星観測気球や柔軟再突入機や惑星飛行機などの検討との連携も生まれました。伸展•展開のみならず、柔軟構造を収納することの困難さと重要性も認識されました。一方、堅牢な構造として、衛星構体のみならず、着陸脚、推進剤タンク、月惑星貫入機器構体、再突入機器構体などの研究開発も進みました。大小型を問わず、衛星構体/搭載機器構造を問わず、超高精度構造の要求が高まりました。軽量化の制約の強い中での大型化は必然的に柔軟構造になりますが、柔軟でかつ超高精度構造物を実現するには、あるいは超大型宇宙構造物を実現するには、材料物性値の不確定性、擾乱伝達、部品工作精度、使用環境、熱変形、展開再現性、軌道上経年変化、地上試験方法、解析手法、軌道上結合構築方法、軌道上構造同定、軌道上変形•形状計測手法、ァクチユエータ、ロック機構、マルチボディダイナミクス、軌道上性能保証方法など、検討しなければならないことは非常に多く、緻密にしかしバランス良く目酉己せ（網羅）することが要求されます。それゆえに、これからも、この分野自身の伸展•展開、発展•膨張、アイデア、柔軟性、堅実さ、連携などの創発が楽しみです。