電気のドクターと呼ばれた川北栄夫

摘要

各地の電気事業の設立、経営に関与した川北栄夫は、中小軌道事業者を組織した雨宫敬次郎、中小の電気事業者、軌道事業者を組織した才賀藤吉と並び採算性の低い中小公益事業に進hで出資した明治末期から大正期の公益事業家として一括できると評された。川北栄夫は、才賀藤吉と同様に電気技術者であり、技術的知見を踏まえて地方の電化促進に寄与し、さらに電気機器製造業にも本格的に進出し、ソフト、ハード両面で電気のドクター的機能を果たした。このように注目すべき存在であるが、伝記の他には吉田正榭、森田弘美の主に経営史の視点からの研究、著作に留まり、多様な活動に鑑みると未解明な点は多々ある。特に技術の視点からの事業展開の一層の検討が必要と考える。例えば、川北栄夫は、日本窒素肥料の野ロ遵と同様に、シーメンス社にて研鑽を積hだが、同社が果たした人材養成の役割等はさらに追及が可能なように思われたとの指摘もあり、野ロ遵についての拙稿を踏まえ考慮する。また電気事業の経営統合、電気機器製造業の総合化に向かう過程で事業は破綻するが、脱炭素化に向けた地域新電力の誕生の一方で新技術の開発適用ニーズの増大する現在と類似した時代背景とも見受けられる。よって川北栄夫の事業活動を技術者の視点を重視して包括的に調査し、時代変化に対応した課題や教訓等の検討に資することとする。