セミクラスレートハイドレートの熱伝導率測定：TBAFハイドレートの生成と非定常細線法による測定

摘要

クラスレートハイドレート（以下CH)は水分子によって形成された籠状の構造（以下ケージ）に他の分子（ゲスト分子）が入り込んだ形の結晶構造を持つ物質である.CHは氷のような外観をしており，低温•高圧下で生成する.また，結晶構造をもつものとしては特異的な，ガラス物質のような熱伝導率挙動を示す[1].セミクラスレートハイドレート（以下SCH)はCHの類似物質であるが，ゲスト分子の一部が籠状構造の一部と入れ替わった構造を持ち，ゲスト分子がCHと異なりイオン物質である.ゲスト分子を溶かした水溶液を冷やすことで生成し，生成条件は常温常圧であるので，空調用の潜熱蓄熱材としての利用が期待されている[2].他にも，SCHにはゲスト分子が入つていない空のケージがあり，圧力を加えることで気体分子を空のケージに入れることができる.その圧力と温度の条件は気体分子のCHを作るよりもより低圧•常温付近で生成するので，ガス分離材もしくはガス貯蔵材としての利用が期待されている.SCHの中でもTBAFハイドレートは生成する温度が高いため，より容易な条件で気体分子を捕集することができると期待されている[3].著者らの研究室ではTBABとTBACの熱伝導率を測定したが[4]，TBAFハイドレートの熱伝導率測定例はこれまでのところ存在しない.本研究では非定常細線法を用いてTBAFハイドレートの熱伝導率を予備的に測定した.TBAFハイドレートは水和数が29と32のものがあり，TBAFハイドレートの生成の際は水和数が29のものと同じ濃度の水溶液から生成させた.またハイドレートの測定温度範囲は243 ～ 293 Kで，水溶液に関しては301～ 313 Kにて測定を行なった.