淺野總一郎翁の京浜工業地帯開発貢献の分析に関する研究: その２ 明治政府における士族授産としてのセメント産業

摘要

京浜工業地帯の埋め立てと企業誘致に尽力した淺野総一郎翁の一連事業の結実として、多岐にわたる諸産業発展もまた特筆すべき業績である。この埋立事業に先立ち、工場地帯の近代化と防火・耐震化を見据えたコンクリート建造物の需要、すなわちセメント製造の喫緊の必要性をいち早く見越した先見性は、まさに傑出した才覚であったといえよう。本報では前報の補足の意味を込め、淺野総一郎翁がセメント事業を民間資本による産業としての起業を目論んだ過程に着目し、先駆的経営の展開をもって官から民への殖産興業の移譲モデル成功例となった経緯を掘り下げて考察を行う。なお、京浜工業地帯とは太平洋ベルト地帯を構成する主要な地域として東京‐横浜を中心に広がる工業地帯である。現在では東海道沿いの神奈川県藤沢市や内陸の埼玉県までを含めた総称とする説もあるが、本報では東京湾岸京浜工業地帯埋め立て当時の実態を解明し考察を行うものとする。