生態幾何学的建築の系譜と「ラ・トゥーレット修道院」の視体験の研究

摘要

20 世紀の建築は人の移動する視点を内包することで、シーケンシャルな空間体験を実現した。しかし、それはあくまで設計者によって脚色されたフィクションとしての空間体験であった1)。近年それに替わって台頭してきたのが、主体的に体験される建築である。例えばSANAA の21 世紀美術館は来館者によって主体的に鑑賞経路は選択されるし、隈研吾の「荒野」1)、青木淳の「原っぱ」2)のコンセプトも人が主体的に行動する空間を意図している。J.J.ギブソンの理論は人と環境の主体的な関わりを捉えるものである。視覚的環境は実体的な「面の配置」からなる「生態幾何学」によって記述され、人はそれを時間的に連続した身体入りの視点によって知覚し、同時に行動を起こしていく3)。本研究はこのような主体性に基礎を置いたギブソンの理論に基づき、主体的に体験されることが意図された建築について分析する。