広帯域振動分光によるイオン性分子・水溶性高分子化合物の水和状態の直接測定

摘要

生体の大部分は水からできており、水は生命にとって欠かすことができない重要な物質である。その重要性は、水単体の存在や特性にだけではなく、生命に必要な物質を溶解し、適切な挙動・運搬を行う溶媒としての機能にこそあると言える。例えば、身体を構成する水には様々なイオン性分子が溶解しており、これらのイオンは神経伝達や物質代謝など、体内で様々な役割を担っている。イオン性分子は水中でイオン状態の場合、水分子との間に水和状態を形成しているので、水和状態の解析は生体機能の解明に重要な役割を果たすと考えられる。マイクロ波・テラヘルツ波は、1MHz～10 THz 付近の周波数を持つ電磁波で、この周波数領域には、水分子 (第一水和水、第二水和水、バルク水、自由水)の回転緩和や、水分子同士の水素結合のモードが存在する。これらマイクロ波・テラヘルツ波の特徴を用いれば、水分子の水和状態を測定可能であるとされている。本報では、生体にとって重要な役割を持つイオン性分子の水和状態やバイオマテリアルによく使われる水溶性高分子の水和状態をマイクロ波・テラヘルツ波分光により系統的に測定した結果について述べる。