代謝モニタリングのための生化学式蛍光ガスセンサの研究

摘要

平均寿命と健康寿命の間には2019年時点にて男性8.73年，女性12.06年の差が存在する1。この差の短縮が生活の質を維持し，社会保障制度を持続するために重要とされる。この乖離是正の一つの方策に予防医療の推進が挙げられる。これは健康問題が生じる前，あるいは問題の規模が小さい間に原因を取り除き健康を維持するという考えである。予防医療の実践の一例には、定期健康診断が挙げられるが，過去一年間に健康診断や人間ドックを受診した20歳以上の人口割合は2019年では約69.6に留まっている2。また，健康異常の兆候を早期検知するためには，より頻度高く身体の生化学状態を定量的に評価することが必要と考えられる。この実現のためには病院や検査機関に赴くことなく，_身で簡便に，信頼できる生化学情報を取得することが必要となる。呼気や皮膚ガスなどの 生体ガスは非侵襲的かつ簡便な採取が可能であり，その中に含まれる血液由来の揮発性有機化合物(VOCs)濃度は代謝や疾患と関連する3。生体ガス中には数百種以上のVOCsが含まれるためにガスクロマトグラフ質量分析計などの成分分離分析が現在主流の計測法となっている。一方で，ガス分析装置は大型·高価·操作に習熟を要するなどの特徴から日常における生化学状態のモニタリングに最適ではない。我々は，酵素の基質特異性に着目し，呼気や皮膚ガス中に含まれるVOCs濃度の経時変化を連続計測によるヒト代謝状態のモニタリングを目指したバイオ蛍光式ガスセンサシステム(バイオスニファ)の開発を進めている。本稿では，脂質代謝に関連するァセトンガス用バイオスニファによる呼気中アセトンガス計測4，および日常的な代謝モニタリングに資する皮膚ガス計測技術の開発5，6について述べる。