音楽知覚の脳機能に関して－概観と最近の研究から

摘要

聴覚は人類のみが特異的に発達させた音声言語のインターフェースとして，極めて精巧な情報処理を行う機能を持っている．音楽は言語の誕生と同時あるいはそれより以前に，コミュニケーションの道具として誕生したと考えられるが，言語の発達の後は，具体的な意味の伝達の役目を終え，音とその組み合わせの美しさを追求するようになったのであろう．（歌詞を持つ歌ももちろん音楽の重要なジャンルであるが，ここでは除くことにする．）音楽は楽譜にすると，基本的には各音の音高と継続時間で記述可能だから，一見その受容の機構は簡単ではないかと思われるが，ピッチ知覚一つとってもいまだに解明されているとは言えない．そのような状況ではあるが，多くの知見が集積していることも事実である．本稿は講演のための前書き（あるいはあとがき）のようなもので，文献調査を意図したものでないが，これから勉強·研究しようという学生諸氏が興味を持てるような話が一つでもあれば幸いである．