膜比抵抗の急峻な変化による樹状突起上の信号伝播の向上

摘要

海馬CA1錐体細胞の樹状突起は，嗅内野と海馬CA3からシナプス入力を受け取るが，これらの入力は樹状突起上で分離して受け取られることが知られている．嗅内野からの入力は樹状突起遠位部で受け取られ，海馬CA3からの入力は樹状突起近位部で受け取られる．樹状突起遠位部のみにシナプス入力が与えられた場合には，樹状突起上の信号伝播における減衰によって，細胞体での発火が困難であると考えられており，嗅内野から海馬CA1への直接入力がCA1の出力に対して殆ど反映されないことが導かれる可能性がある．ところで，海馬CA1錐体細胞の樹状突起では，膜特性の一種である膜比抵抗が階段関数に従って不均一に分布しており，膜比抵抗は樹状突起遠位部において低い値をもち，樹状突起近位部では高い値をもつことがOmoriらによって示されている．本報告で，我々は，ケーブル方程式の解析とコンパートメントモデルに対する数値実験により，樹状突起上の信号伝播に対する膜比抵抗の不均一性効果を明らかにし，膜比抵抗が階段関数に従って樹状突起遠位部で低い値をもつ場合には，樹状突起遠位部から細胞体への信号伝播が向上し，樹状突起遠位部のみへのシナプス入力によって細胞体での発火が得られることを示す．