細胞の動態から回路網の動態へ－NEURONシミュレータによる仮想生理実験

摘要

我々は，NEURONシミュレータが介在した理論家と実験家の協力により，逆伝播活動電位に注目して，神経修飾一細胞の動態一回路の動態と分子から回路まで統合的理解を目指すものである．逆伝搬活動電位の情報統合における役割，そして情報統合における樹状突起上の様々なイオン電流の役割は，いまだ明らかになっていない．細胞膜は非線形な電位依存性内向き電流と外向き電流からなる並列回路である．これらの電流が釣合う点ではインピーダンスが正と負に発散する特異点が普遍的に存在する．我々は数値仮想生理実験により，逆行性伝搬が起こる動作モードにおいて，この特異点構造を反映して，外向き電流に対する神経経飾により，EPSPが劇的に変化することを示した．この特異点が誘発する不連続な神経活動の変化より，逆行性伝搬と各イオン電流のシナプス情報統合における役割を示す．次に，単一細胞の摂動応答の計測により位相応答曲線を計測して，マクロな神経回路網の動態の推定を行う．これにより，逆行性伝搬が起こる動作モードにおいて，神経修飾により回路網の動態がどう変化するか明らかにする．