R-743黒リン型V族原子層の特異なDirac電子状態

摘要

原子層厚さの黒リンの作製と異方的な高ホール移動度を持つ伝導特性が報告されて以降，グラフェン，シリセンなどのIV族元素のグラフェン状構造，遷移金属ダイカルコゲナイドに加え，V族元素の単原子層および数原子層物質の電子状態研究が多様な応用性の観点からも注目されている。比較的多数の報告がされているバックルしたハニカム構造のβ相に対し，いわゆる黒リン型構造は上下2層のジグザク原子鎖からなる直方体構造でありα相とも呼ばれる。α相のV族原子層は結品構造の対称性に起因して，ブリルアンゾーンの中心や境界以外において異方的な分散を示すDirac状態が存在し，波数位置は格子歪みによって制御できることが報告された。2層厚さのα相アンチモンは，SnSとSnSeを基板とした場合とでは異なった面内格子定数で成長しており，緻密な試料作製条件の制御で得られた高品質試料に対する角度分解光電子分光（ARPES）測定の結果からは，Dirac点の波数位置が興なっていることが確かめられている。また，HOPGを基板として作製されたα相ビスマスに対しては，マイクロARPES測定によって，1層と2層厚さの領域のそれぞれについて異方的な分散を示すDirac状態がブリルアンゾーン境界の波数位置で見出されている。均一な層数分布を持つ試料を得るための作製条件の探索やさらなる微小スポットによる顕微ARPES技術の向上が複数の研究グループで進展中であり，今後ますます興味深い成果が発表されると期待している。