筋ジストロフィー —その多様性と診断アルゴリズム

摘要

筋ジストロフィーは,筋萎縮や筋トーヌス低ドを来す病態の中から分かれて確立された概念であり, 1891年にErbが「筋線維の壊死?変性を主たる病変とし.臨床的には進行性の筋力低下が生じる,遺伝性疾患」に対して「進行性筋ジストロフィー (dystrophia muscularis progressiva)」という用語を提唱した。臨床 像が異なる複数の報告を包括する概念として提唱されたこの定義は,現在でも筋ジストロフィーの病態を的確に表しているが, その経緯からさまざまな病型を含んだ多様性が高い病名として用いられてきた。骨格筋の機能や病態がまだ十分に解明されていなかった時代には,「筋ジストロフィー」という用語が筋力低下だけでなく筋トーヌス低ドをも含む意味で用いられたり,その一病型で ある「肢帯型筋ジストロフィー」という病名が「他の病型に含まれない筋ジストロフィー」といったいわゆるwastebasket diagnosisとして用いられたりした。このような混乱を解決に導いたのは,DMD遺伝了一の単離に始まる遺伝性 筋疾患の分子遺伝学的病態解明である。本稿では,筋ジストロフィーの多様性と,その診断の進め方について概説する。