ォレキシン受容体を標的としたナルコレプシー治療薬の開発

摘要

今から20年前、1998年にその後の睡眠研究に大き な影響を与える物質「オレキシン（別名：ヒポクレチ ン）」が発見された。オレキシンが覚醒の維持に極めて 重要な役割を担い、その機能亢進は不眠症の病態生理 にも関わっていることが明らかにされた。それ以来、 オレキシン受容体拮抗藥は新しい機序の不眠症治療藥 として注目され、世界中で熾烈な開発競争が繰り広げ られてきた。2014年末には、オレキシン受容体拮抗 薬suvorexantが不眠症治療薬として日本で世界に先 駆けて上市されたことで記憶に新しい。2016年に発 表されたRAND Europeの報告では、日本における睡 眠が関わる経済損失額は15兆円にも上との試算が ある。睡眠は私たちの経済活動に大きく関与してお り、睡眠の機能や睡眠を助ける藥物に関する研究は今 や国民の関心事であることがよくわかる。このような 睡眠についての過剰なまでの注目の一方で、覚醒につ いてはその関心が薄いように感じられる。本稿では、 オレキシンの本来の機能である覚醒に焦点をあて、過 眠症の一種であるナルコレプシーとその治療薬の開発 について紹介したい。