二トロアレーンの海産生物に及ぼす影響'

摘要

二トロアレーン（NPAHs)は主に化石燃料の不完 全燃焼により非意図的に生成し，最終的には海域環境 に流入すると考えられており，海産生物に対する影響 が懸念されている。また，NPAHsと分子構造の近い ピレン等の多環芳香族炭化水素は紫外線照射により， 海産生物に対する毒性が強まることが知られており. 太陽光によりNPAHsの環境に及ぼす影響が増大する 可能性が考えられる。そのため，生残，成長，再生産 などに対する一般的毒性に加えて，光条件を考慮し たNPAHsの海産生物に対する毒性影響を明らかにし， 既報の環境中濃度と比較することで，現時点における NPAHsの海洋生態系への初期リスク評価を行うこと を目的とし，本研究を実施した。栄養段階の異なる，海産藻類スケレトネマ，甲殻類 シオダマリミジンコ，魚類マミチヨグおよびマコガレ ィを供試生物とし，10種のNPAHsを被検物質として 急性毒性試験を行った結果，試験生物によって物質 ごとの感受性が異なり，生物の種類により強い毒性 を示す物質が異なることを明らかにした。1-ニトロナフタレンまたは1-二トロピレンを含んだコレステ ロールペレツトを抱卵中のマミチヨグメスの筋肉中に 打ち込み，受精卵への移行試験を実施した結果，抱卵 魚中の卵に化学物質を移行させる手法として，コレス テロールペレツト移植法の有効性を確認した。同手法を用いて，被検物質が移行した受精卵への毒性影響 を検討した結果，いずれの物質もふ化率に最も顕著な 影響を及ぼし，受精卵中の被検物質濃度を基に慢性毒性値を明らかにした。NPAHsのシオダマリミジンコ に対する毒性の光照射による変化について検討した結 果，検討した10種類のNPAHsのうち9種類は，光照 射により毒性が強まった。毒性の変化を検討した物質 のうち，1-ニトロピレンが最も光照射により毒性が 強まり，暗条件下と比較して明条件下で毒性が千倍以 上強まった。光照射による1-ニトロピレンの毒性の 変化の原因について活性酸素種（ROS)および光分解 物の発生の両面から検討した結果，毒性変化には主に ROSの生成が寄与していることを明らかにした。上記の試験で得られた毒性値または影響を及ぼ す濃度と既報の環境水中濃度を比較し，NPAHsの 初期リスク評価を行った。その結果，環境水中濃 度が実測または推定されている5種のNPAHsのう ち，4種については光による毒性変化や魚類に対する 慢性毒性値の不確実性を考慮しても，現在の海水中濃 度で海産生物に影響を及ぼす可能性は低いと想定され る力s,1-ニトロピレンについては海産生物，主に藻類に影響を及ぼす可能性があることを明らかにした。 本研究で得られた研究成果はこれまでほとんど研究例 のないNPAHsの海洋生態系に対する環境影響評価に 繋がるものであり，主に沿岸域の海洋環境の保全に有 益な情報となることが期待される。