材料·生体·情報の融合を目指して(3)－生物の多彩なプロトンポンプ

摘要

動物個体のいろいろな組織に酸性のpHを示す場所（コンパートメント）が存在し，重要な機能をしている．例えば破骨細胞の形成している骨吸収窩(resorption lacuna)，尿細管，膀胱，輸精管などである．これらの細織のpHは消化，骨代謝，イオン·ホメオスターシス，精子の成熟などに欠くことができない．したがって酸性化に関与する機構は組織としての機能を確立する上で重要である．また細胞内にもpH4.5～pH6.5の内部酸性のオルガネラが存在し，エンドサイトシス，エキサイトーシス，小胞輸送など，細胞内トラフィックの過程に重要な役割を果たしている．これらはリソソーム，エンドソーム，シナプス小胞，分泌顆粒，Golgi装置などのいわゆる内膜系(endomembrane)とよばれるオルガネラである．また，メラノソーム，アクロソームなどもこれに含まれる．このような様々な酸性環境の形成に中心的な役割を果たしているのは，液胞型H{sup}+ポンプATPase (Vacuolar type-ATPase: V-ATPase)である．この酵素は1985年に酵母の液胞(vacuole)から初めて精製され，詳細な遺伝学的な研究が展開された．同じプロトンポンプが被覆小胞，クロマフィン顆粒から精製されたが，現在でも液胞にちなんだV-ATPaseというの名称が広く用いられている．本稿では，我々の研究室の最新の研究成果を中心にこの多彩なプロトンポンプV-ATPaseについて紹介したい．