材料·生体·情報の融合を目指して(3)－生物の持つナノモーター,ATP合成酵素

摘要

生体内ではエネルギーを必要とする様々な反応が起きている．色々な生体分子の合成，細胞膜を介した物質の能動輸送，筋肉の収縮や発熱などが起きるときに，生体にありふれた核酸の一種であるATP（アデノシン三リン酸）がADP（アデノシンニリン酸）とPi（無機リン酸）に分解して，そのときに放出されるエネルギーが使われている．生体内の反応に「エネルギーの通貨」のように用いられるATPを合成するには，動物や細菌であれば外界から取り込んだ栄養の代謝エネルギーが使われ，植物であれば光エネルギーが使われる．最終的には，生体におけるほとんどのATP合成は，動物や酵母ではミトコンドリア内膜で，細菌などの原核生物では細胞膜において，また，植物であれば葉緑体のチラコイド膜において，酸化的リン酸化あるいは光リン酸化と呼ばれる機構で成されている．いずれの場合にも電子伝達鎖の形成するオルガネラの内外（細菌の場合には細胞の内外）のH{sup}+の電気化学的ポテンシャル差(△μH{sup}+)を駆動力として，ATP合成酵素がADPと無機リン酸からATPを合成している．したがって，ATP合成酵素は，H{sup}+輸送性ATP合成酵素(H{sup}+ transporting ATP syntheses)である．また，逆反応でATPの加水分解を行う場合には，ATP合成時とは逆の向きにH{sup}+を輸送するH{sup}+-ATPaseである．