波数空間分解光電子分光を用いた有機分子吸着サイト解析手法の開発

摘要

PMMsの研究は特にペリレンテトラカルボン酸二無水物（perylene-tetracarboxylic-dianhydride, PTCDA）で詳細に行われている。有機分子結晶や有機分子層薄膜は指数の決まった金属表面上に蒸着して生成される。多くの有機分子結晶において，有機分子の繰返し周期が基板原子の剧期と一致しない構造になるが，PTCDAは有機分子の格子と基板原子の格子が整合状態（コメンシュレート）になるためモデル計算に適している。Ag(110)に300Kで1モノレイヤーPTCDAを蒸着するとbrick-wall形で吸着し，3モノレイヤーほど蒸着後550Kでアニールするとherringbone形に配列することがLEEDやSTMの実験で報告されている。Ag(110)にbrick-wall形で吸着したPTCDAのHOMO軌道から放出された53 eVの光電子のPMMsを計測した実験結果と，PTCDAが孤立で存在すると仮定した（基板を無視）PMMsの平面波近似の計算結果は非常によく一致した。一方，光電子のエネルギーが30 eVと低いとき，実験では中心付近にPMMsの模様が現れるのに対し，平面波近似ではこの模様が現れていない。これより，光電子のエネルギーが低いほどPMMsの模様は複雑になり，多重散乱を基にした計算により構造を解析する必要があることが示唆されている。また，brick-wall形とherringbone形のPMMsが大きく違うことから，PMMsをより詳細に検討することで，分子の吸着サイトを同定する解析手法を確立できると期待される。