こころをみつめるBOOK GUIDE Vol.174森川すいめい著『その島のひとたちは、ひとの話をきかない―精神科医、「自殺希少地域」を行く』

摘要

「私たちは生きやすい社会に暮らしているだ ろうか?」と問うてみて、この答えはひとによっ てさまざまだろう。ただ、俯瞰してみれば、戦 時下、国家のために個人の自由を奪われた時代 に比べれば、まだしも生きやすい時代なのかも 知れない。わたしにはそのときを生きた経験がないので実感はなく推測にしか過ぎないが。敗戦後、 奇跡の復興を遂げたこの国は、高度成長期を経て 安定成長期へと変貌していった。その時代、産業の発展によってインフラが整備され、雇用が拡大し、 また家庭には電化製品が整っていった。来し方に戦禍を体験した人たちが、行く末に生きる希望を抱い た時代だった。一億総中流社会などとも呼ばれた。 その後、情報化社会の到来を迎え、職場も家庭も合理化?効率化に向けて加速度的な速さで変貌を遂 げていく。でははたして、私たちには生きやすい社 会へと向かっている実感があるだろうか。本書が提 示する、ひとつの大きな問いである。