腹膜透析患者の集学的管理

摘要

末期腎不全患者の高齢化や医学的背景の複雑化により,患者個々の状態を踏まえて最適な腎不全医療を提供しようとする考えが強調されている.このような背景の中,最近の診療報酬改定では腹膜透析(PD)の普及を促進する動きもみえる.一方,国内の腹膜透析患者は過去10年近くおおよそ9千人台のレベルで推移し,患者絶対数の大きな増加はない.しかし,これをもってPD普及が遅れているとは言い切れない.PD患者数は導入例数,継続例数,そして治療中止離脱例数(死亡を含む)を反映しているからである.2018年の新規PD導入例は2,293例,新規透析患者全体の6.0%を占めていた.PD患者総数に関して問題点をあげるとすれば,早期離脱例が少なくないという事実である.PDの医学的利点を期待してPDを開始するものの,その利点を十分に享受することなく比較的早い時期にPD治療を中止し血液透析(HD)に変更する例は珍しくない.透析医学会の2018年統計調査では,PD患者の7割は治療期間4年未満例であった(図1).長期継続例が少ないことがPD患者数の頭打ちに影響していることは明らかである.2011年から13年にかけてわが国のPD離脱状況を調査したNEXT-PD研究では主な離脱理由として体液管理不良,透析不足,感染症などがあげられているが，PD5年未満では感染症と透析管理,一方，5年以上の長期例では腹膜劣化と離脱理由は違っている(図2, 3).これら離脱要因を集学的に管理することが安定したPD治療を継続するポイントとなる.2019年に日本透析医学会から10年ぶりの改訂となる「腹膜透析ガイドライン2019」が刊行された.この間のエビデンス蓄積とガイドライン策定指針を踏まえて作成されたのが今回のガイドラインである.この内容は現時点における腹膜透析診療の集学的管理の基準となるものといえよう.本稿では,本ガイドラインの概要を述べ,PD診療における諸課題に対する最近の取り組みの一部を紹介する.