情動表現と社会的意味の共生：同世代集団における感覚選択的な社会的コミュニケーションの発達とその障害－自閉症の理解をめざして

摘要

発達の臨界期における視覚あるいは聴覚遮断により社会性の発達が抑制される。 感覚選択的な社会化の発達とその障害に関し、social brain networkのダイナミックスを基盤に解明を試みる。 人間は生物進化のなかで、音声言語による社会的コミュニケーションと消費財·生産財の生産活動において際立った存在である。 しかし、社会歴史的な経緯を数百万年遡行すると、社会的知性に富hだ霊長類の世界に行きつく。 我々の、道具せ扱う知性や他の認知能力の土壌は、非言語的なコミュニケーションと社会的な知性であるという考え方が、主として霊長類のフィールドワークをおこならている研究者たちから提唱されて久しい(1)。 社会的認知能力が、他の認知能力とはことなった範疇であるとの認識は、また動物の脳の特定の部位の損傷実験や、人間の症例研究から生じ、さらに社会関係の認識に関わる脳の領域がsocial brain networkとしてとらえられよう。 としている(2)。 発達障害の臨床·研究なかで、他の知覚、認知機能は正常であっても、社会的相互作用について選択的な障害をもつものをひろく自閉症スペクトルとして扱うようになってきているが、この神経学的基盤に関して、扁桃体、帯状回を含む辺縁系と前頭眼窩野などの前頭連合野の異常が指摘されている。 ごれらの領域の障害による自閉症スペクトルにとって本質的な症状は、一次的な表象から二次的な表象を構成し、それに基づいて他者の行動を心の状態として説明することが出来ないことである、とする「心の理論」がLeslie等にようて示唆されている(3)。