アンモナイトに記録された太古の古環境を読む

摘要

アンモナイト類はおよそ4億2千万年前のシルル紀後期に地球上に出現したと考えられており（棚部，1998），その進化史の中そデボン紀末，ペルム紀末，三畳紀末などの大量絶滅を経て，百亜紀末に地球上から完全に姿を消した（House，1988）。 アンモナイト類はこの約3億5千万年間のなかで，その多様性変動と海水準変動が調和的であるなど，地球史を通じたイベントと密接に関連した進化史を有することから，古環境変動とそれに呼応する生物多様性変動を知る上でも重要な生物の一つである。ところが，アンモナイトを用いた古環境学に関連する研究や，アンモナイトからわかる古環境を利用した研究は，必ずしも盛hに行われてきたとは言い難いのが現状であろう。 これにはアンモナイトとはどのような生物なのか，古環境解析にアンモナイトを用いることの利点，欠点は何か，ということなどが広く知られていないことが要因の一つと考えられる。そこで本論では，アンモナイトの生物学的側面に触れた後に，これらの利点や欠点を挙げ，特に酸素同位体比に着目して殻体に記録された環境因子（古水温）を利用したアンモナイト類の古生態などに関する研究例を紹介する。 これまでアンモナイト皆の古生態は殻形態や化石産状，現生生物との比較などから憶測されてきたが，筆者らは殻体に記録された古水温を利用してその生活様式や生息場所を定量的に評価，再検討することによりこれまでとは異なる結論を得ている。 さらに，その新たな視点と過去の研究とを比較してアンモナイト類の進化史についても言及した。