中性子によるナノ構造と材料評価

摘要

物質の構造や材料の評価を行うためにX-線が利用されていることは周知の通りであるが，中性子線がX-線に比肩するよい手段であることは一般にはあまり知られていない．これは，たとえ小型の中性子源と言えど大学の研究室や企業に備えることが殆ど困難であり，利用に際しては大型施設まで出向く必要があるため一般への普及が十分に浸透してこなかったことが考えられる．現在，わが国には日本原子力研究所·東海研（以降原研と称する）に研究用原子炉として世界最高クラスのJRR-3Mが1990年稼動している．また，つくばの高エネルギー加速器研究機構（以降KEKと称する）には加速器駆動によるパルス中性子源KENSが1980年より稼動している．現在これらの施設の利用者はそれぞれ250人規模である．2001年より原研とKEKの共同事業として建設が開始されたJ-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)は現施設に比べると300倍もの中性子強度の発生が可能となり，利用者数も現在の10倍になることが見積もられると同時に産業利用の飛躍的増大が期待されている．従って，この解説では，中性子により材料等の原子レベルの構造評価が如何に行えるか概観し，将来のJ-RARCにおける中性子利用について展望してみたい．