関係性のデザインに着目した人工物設計におけるTRIZ思考の有用性（事例：超低入力電圧(0-1V)対応可能なDC-DCコンバータ）

摘要

TRIZは，1940年代にロシアのAltshullerが特許審査官として数多くの特許を帰納的·統計的に分析した結果から生み出された発明問題解決の理論であり，東西の壁崩壊後に西側に流出し，日本には1996年に本格紹介された．その後ロシア伝統のTRIZに加えて，たとえば英国のDarrell Mannらによる西側の研究や方法論との統合の試みにみられる進展もあり，我が国の開発現場でも問題解決支援手法としての認知度が高まっている．一方，近年の設計工学では，単なる局所的な最適化に端を発する社会的諸問題を内省して，「関係性のデザイン」が提唱されている．この考え方は，直面する問題（いかに作るか）を対症療法的に解決するのではなく，作ったものが社会に投入された時に他の人工物·人間·社会·環境とどのように関連しどのように変容させるかをも考慮すべきであると主張する．別の言い方をすれば，とにかく作れば良いのではなく，何を作るべきかをも問うものである．TRIZが（一部の問題定義手法を除いて）「いかに作るか」という問題の解決支援手法と通常みなされるのに対して，関係性のデザインは「何を作るか」そのものを問う．このように両者は注力する所が異なるが，結果的には両者は設計事例を生む相補的な動因である．本稿では，具体的設計事例「超低入力電圧(0-1V)対応DC-DCコンバータ」を媒介させるという方法で両者をつなぐ筋道を提出する．この事例は，21世紀以降の人類の命運がかかる地球温暖化の抑制に関係するものであり，TRIZ思考の産物であると同時に，関係性のデザインが指向する物の事例でもある．