燃料電池用ガス拡散基材

摘要

炭素·黒鉛製品の歴史は長く，18世紀の産業革命後の燃料としての石炭·コークスの利用に始まる．19世紀に電気が発明され，世界が電気の時代になると，乾電池用炭素棒·電気炉用電極·食塩電解用電極·電機用ブラシなど今日の炭素製品の原形が出現した．さらに，19世紀末にAchesonが人造黒鉛の製造技術を確立し，前述製品の材質が炭素質から黒鉛賀となったことから，炭素·黒鉛製品は工業材料·部品としての地位を確固たるものとした．第2次世界大戦後は炭素·黒鉛工業の規模も世界的に拡大して行き，不浸透性黒鉛·原子炉用黒鉛·放電加工用電極·メカニカルシール·高純度黒鉛などが新製品として登場した．一方，炭素の学問的解明も精力的に進められるようになり，その産物として，炭素繊維·ガラス状炭素などの新しい形態の新炭素材料が生まれた．記憶に新しいところでは，カーボンナノチューブ·フラーレンも新炭素材料の代表的な例である．炭素材料学会編「新·炭素材料入門」では，いろいろな炭素材料として12の節が，炭素材料の応用として11の節があるほど，今では炭素·黒鉛材料の裾野は広く，身の回りの多くの分野に利用されている．燃料電池の世界では，最も製品としての完成度が高いといわれているリン酸形燃料電池において既に各部に炭素·黒鉛が用いられており，電極·セパレータ·触媒担持体がその主な用途である．200°Cのリン酸中で，かつ電位差がある状況下で長期にわたって使用可能な材料は（成形性に難のあるセラミック製品以外では）炭素·黒鉛のみである．リン酸形燃料電池よりは平易な状況下で運転される固体高分子形燃料電池ではあるが，使用部材に要求される安定性はやはり高いレベルにあり，同様の部位には炭素·黒鉛材料を用いる方向で各社の開発は進hでいる．また，新炭素材料であるカーボンナノチューブを燃料水素ガス貯蔵の手段として，フラーレンをノ固体電解質として用いる検討も行われており，カーボンナノチューブの1種であるナノホーンを触媒担持体として用いることにより触媒利用効率が格段に向上したという報告もある．ここでは，固体高分子形燃料電池用の炭素·黒鉛材料として，特にガス拡散電極基材に着目し，その特性と燃料電池の発電性能との関係について解説を行う．