ブロイラーからの窒素排泄量低減に関する研究

摘要

これまで我が国の畜産は，規模拡大と生産性の向上を実現し，国民に良質なタンパク質を低価格で供給してきた。しかしながら，限られた面積のなかでの規模拡大を行った結果，家畜排泄物が原因と考えられる環境汚染がみられるようになってきた。そこで，本研究では窒素排泄量の低減について，アミノ酸の持つ栄養生化学的な機能特性を利用して検討を行った。すなわち，生産性を低下させることなく排泄量を低減できる粗タンパク質水準を検討するとともに，飼料中のアミノ艶クロム酵母，共役リノール酸および繊維分解系酵素剤の添加が低CP飼料給与時に問題となる体脂肪蓄積に及ぼす影響を検討した。研究の結果得られた知見の概要は以下の通りである。ブロイラーヒナにおいて，必須アミノ酸を添加した低CP飼料給与による窒素排泄量の低減の可能性を検討した。その結果，CPを2ポイント低下させた飼料を給与しても，増体量および飼料効率を低下させることなく，窒素排泄量を約10～20％低減できることを明らかにした。しかしながら，低CP飼料の給与により腹腔内脂肪の蓄積が増加した。2．低CP飼料中の必須アミノ酸（EAA）と可欠アミノ酸（NEAA）との比が，ブロイラーヒナの成長，窒素排泄量お　よび腹腔内脂肪の蓄積に及ぼす影響を検討した。その結果，低CP飼料中のE／N比が高い飼料を給与すると，対照飼料給与時と同等の成長を示しつつ窒素排泄量を20％低減でき，低CP飼料給与に伴う腹腔内脂肪の蓄積増加　を抑える可能性が示された。3．ブロイラーヒナにおいて，過剰量の必須アミノ酸が，飼養成績および腹腔内脂肪の蓄積に及ぼす影響を検討した。必須アミノ酸を，①ロイシン、イソロイシン、バリン，②トレオニン，③メチオニン，④フェニルアラニン、チロ　シン，⑤リジン、アルギニン，⑥グリシン，⑦トリプトファンの7グループに分け，CP19％飼料にそれぞれのアミノ酸要求量の150％および200％となるようにそれぞれ添加した飼料を給与した。その結果，腹腔内脂肪重量は，アミノ酸の過剰添加により減少しなかった。増体量および飼料効率は，メチオニンの過剰添加により低下する傾向　が認められた。以上の結果から，低CP飼料に必須アミノ酸を過剰に添加しても腹腔内脂肪蓄積にはほとhど影響しないことを明らかにした。4．低CP飼料給与時の脂肪蓄積の増加の原因が，低CP飼料給与区の炭水化物等の摂取量が高CP飼料給与区よりも　多いことによるか否かの検討を行った。CP19％の低CP飼料給与区と等量の粗タンパク質給与時にCP21％の対照　飼料給与区と等量の炭水化物を中心とする粗タンパク質以外の栄養素を給与したとき，すなわちエネルギー摂取量　を制限したときの肝臓の脂質代謝関連酵素活性および脂肪蓄積を検討した。肝臓の脂質代謝関連酵素活性のうち合　成系のfatty acid synthase活性は，エネルギー摂取量を制限することにより低下する傾向がみられたが，分解系酵　素のcamitine palmitoyl transfbrase活性が低下する傾向がみられた。腹腔内脂肪重量は，エネルギー摂取量を制限しても増加する傾向がみられた。以上の結果から，低CP飼料給与による脂肪蓄積の増加は，炭水化物等の摂取量増加以外の要因によりもたらされる可能性が示唆された。5．体脂肪蓄積を抑制するとされているクロム酵母の低CP飼料への添加が，ブロイラーヒナの成長，窒素排泄量お　よび腹腔内脂肪の蓄積に及ぼす影響を検討した。その結果，CP19％飼料の給与により窒素排泄量を低減できるこ　とが確認できたものの，低CP飼料給与による腹腔内脂肪の蓄積を飼料へのクロム酵母添加により抑えられないこ　とが明らかになった。6．ほ乳類において体脂肪蓄積を抑制するとされている共役リノール酸の低CP飼料への添加が，ブロイラーヒナの成長，窒素排泄量および腹腔内脂肪の蓄積に及ぼす影響を検討した。その結果，共役リノール酸の飼料への添加は，　ブロイラーヒナの脂質代謝に影響を及ぼす可能性が示唆されるものの，低CP飼料給与による腹腔内脂肪の蓄積を　抑えられないことが示された。7．低CP飼料へのセルラーゼ添加が，7～21日齢および28～42日齢のブロイラーヒナの成長，窒素排泄量および腹腔内脂肪の蓄積に及ぼす影響を検討した。飼養成績は低CP飼料給与区と対照飼料給与区との間に差は認められず，窒素排泄量は有意に低減できることが確認された。回腸アミノ酸消化率は，酵素添加により上昇する傾向が見　られた。肝臓の脂肪合成および分解関連の酵素活性は，CP水準および酵素添加の影響は認められなかったが，腹腔内脂肪重量は，酵素添加により減少する傾向が見られた。これらの結果から，低CP飼料へのセルラーゼ添加は，　回腸アミノ酸消化率を改善し，体脂肪蓄積を減少させる可能性があることが示された。　以上の結果から，必須アミノ酸を添加した低CP飼料給与により，増体量および飼料効率を低下させることなく，　窒素排泄量を約10～20％低減できることを明らかにした。低CP飼料の給与による腹腔内脂肪の蓄積が増加は，クロム酵母および共役リノール酸の添加では抑えることはできないが，飼料中のEAA／NEAA比の上昇およびセル　ラーゼの添加により抑制できる可能性が示された。これらの研究成果は，現在大きな問題となっている家畜、家禽からの窒素排泄量の低減化への対応のための有益な知見と考えられる。