糖タンパク質の糖鎖を付け替える-均一な糖鎖構造をもつ糖タンパク質の効率的合成

摘要

糖タンパク質は文字どおりタンパク質に糖が付いた分子であるが，それぞれの成分の生合成過程はまったく異なる.タンパク質は遺伝子に書かれた配列に基づいて単一のタンパク質へと正確に翻訳される.一方，糖鎖は小胞体やゴルジ装置などに分布している酵素群による多段階反応によって合成されているた め，各酵素の発現量，基質濃度，局在などの時空間的な影響を 受け，末端が不均一な分布構造で生産される.たとえば，タン パク質のアスパラギン残基上に結合している N-結合型糖鎖に おいては，図1における糖鎖上のORで示した部位が不均.修飾部位となる.ところが，生産された個々の糖タンパク質は， 糖鎖構造の違いにより in vivoにおける動態と活性が著しく変 化することが報告されている.生物はこのような糖鎖の不均一 性による動態への影響を絶妙に利用しているようであるが，この不均一性が糖鎖機能の解明と利用の壁となり，糖タンパク質 製剤などの応用分野においては品質のバラツキのもととなって きた.そのため，均一な糖鎖構造をもっ糖タンパク質を効率 的に合成する技術の開発は魅力的な課題となっている.本稿 ではこの課題を解決しうる先端技術の一つとして，N-結合型 糖鎖を丸ごと交換することができる酵素（エンドグリコシダー ゼ.正確にはエンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ：EC 3.2.1.96）と，その基質の反応中間体である糖オキサゾリンを 用いた糖タンパク質の糖鎖リモデリング技術について紹介する.