「レーザー点火の最新動向」特集号によせて

摘要

国民に信頼できる，安価でクリーンなエネルギーを提供するための国際エネルギー機関(International Energy Agency: IEA)は，今日の世界のエネルギー構成における 化石燃料の割合が82%と，25年前と変わっていないだけでなく，2040年になってもその割合は79%を占めると分析している1）.一方，気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)で京都議定書の調印を拒否した米国は，シェールガス革命によりCO_2排出量を最も多く削減した2),これらの事柄は，燃焼の重要性を語っており，特に産業革命以降大きな役割を担ってきたエンジンにおいて，さらなる燃焼効率の改善及び環境汚染物質（地球温暖化物質を含む）の低排出化などの高性能化は，社会に与える影響が決して小さくないことを示している.そしてレーザー点火(着火）は，150年続く電気火花点火の限界を超えた強力点火が可能で，低燃費，低排出が望める高圧縮，高過給，希薄燃焼などの理想的な燃焼が望めるため，次世代の革新的省エネ技術として開発が期待されている.最近，マイクロ固体フォトニクスの進歩により，従来のジャイアントパルスレーザーのパルスギャップに当たるサブナノ秒での発振が可能な高輝度マイクロチップレーザーができてきた.これにより，初期のレーザー点火報告に比較しレーザー性能が数千倍向上し，車両搭載も実証されるなどレーザーによるエンジン点火の気運が高まっている.しかし，レーザー点火の基礎的メカニズムが分かっていないなど実は多くの課題が残されている.最も深刻な問題は，火力発電や自動車のエンジンに関わる燃焼や重工?機械とレーザーは異分野として，余り接点が無かったことである.このような背景からレーザー学会「マイクロ固体フォトニクス」技術専門委員会が中心となり両分野の融合を目指した試みが始まっている?.そして本特集号においてもレーザー研究者に加えエンジン，燃焼を主たる研究分野とする方々から原稿を募った.